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『百合と声と風纏い』〜関係性は人の数だけあっていい〜

漫画『百合と声と風纏い』を作者の蓮冥さんから頂いた。withnewsに掲載されたアセクシュアルに関する私の執筆記事を読んで贈ってくださったのだ。


年末年始、年度末と忙しく、なかなかこちらのブログも更新できずにいたため、日が経っていることは本当に申し訳なく思う。


『百合と声と風纏い』(全4巻、4巻は電子のみ)は、百合漫画と呼ばれるジャンルに属する漫画だ。百合とは、女性同士の関係性、特に恋愛関係を描くジャンルのことである。


高校卒業を目前に控えた女子高校生、纏が、運転免許取得のために通っている教習所で、綺麗な年上の女性、百合子と出会うところから物語は始まる。


“好き”がわからないと思っていた纏だが、百合子と交流を重ねるうちに、百合子のことをもっと知りたいと思うようになる。


“好き”がわからない、“恋愛”がわからないと感じていた纏は自身をアセクシュアルだと思い、一人で生きていくために勉強ややりたいことに打ちこんでいたが、百合子との出会いで、世界が変わっていく。


アロマンティック/アセクシュアル(恋愛感情を抱かない、他者に性的に惹かれない)を自認する私としては、纏と百合子に向けられる、「恋愛するのは本能」「好きって、そういうことだよ」などの言葉や行動が、かつて自分に向けられたものと重なった。


纏の妹、岬をはじめとした、「ふつう」の人々が発する有形無形の「恋愛すべき」というメッセージが、纏と百合子を傷つけなかったとは思わない。


纏と百合子は、この出会いを通して、セクシュアリティに留まらず、自分自身の在り方についても、考えを深めていく。


関係性もさまざまあることを知り、自分の望む関係性に気づくプロセス、また、好意はあるが、纏から向けられる気持ちには応えられないのではと思い悩む百合子の様子は、私にも身に覚えがあるものだった。


Aro/Aceスペクトラムに限らず、セクシュアルマイノリティとされる人々は、関係性について考え、試行錯誤しながら自分の望む関係性(関係性を持たないことも含む)を構築していく必要に迫られる。


なぜなら、一般的な関係性をそのまま踏襲するだけでは不都合なことが起こる場合が多いからだ。例えるなら、既製品の服は合わないので買うのが難しく、自分で作る方がいい、みたいな感じだろうか。


関係性には正解がないどころか、一つとして同じものは存在しない。一般的な関係性から遠くなるほど、自分でカスタマイズする部分が多くなる。


纏と百合子はそれぞれに悩み、言葉を交わし、望んだ関係性を最後に実現する。それは“パートナー”ではない、名づけられない関係性だ。


纏と百合子はセクシュアリティが完全に一致するわけではない。セクシュアリティの一致しない纏と百合子の、最終回での関係性を可能にしたものは何だろうか。


私は、“同意”に鍵があると考えている。纏も百合子も、相手を尊重しようと考えをめぐらすことを忘れない。


こんな感情を向けられるのは嫌だろうか、不快にさせていないか、と頻繁に考えており、同意なく相手に欲望をぶつけることはない。むしろ、溢れる気持ちを相手を慮って隠そうとするシーンもある。


関係性を築く上で、同意は欠かせない。そのことを、改めて思い出させてくれる漫画だった。


関係性は人の数だけあること、恋愛も人生もそれぞれであることを描いてくださった蓮冥さん、素敵な作品をありがとうございました。